効果的な事業転換~忘却・借用・学習のサイクルを回す~(前編)

新型コロナウイルスの影響によって、新規事業の立ち上げや事業転換による生き残りを余儀なくされた事業者さんもいらっしゃいます。一方で事業の多角化の成功確率は低いのも現実です。今回はそのような中でどのように事業転換していけば成功確率を高められるのかを解説していきます。

 

1.事業構造転換の基本的な流れ

著書『ストラテジック・イノベーション』よると、イノベーションによる新規事業や事業構造の転換には忘却の課題、借用の課題、学習の課題を克服する必要があると述べられています。既存事業における過去の成功体験に捕らわれることなく、借りられるリソースは活用し、組織学習にて事業を成功に導いていく、ということです。

 

今回はこの忘却、借用、学習について深く見ていきましょう。

 

2.既存組織のビジネスモデルの要諦

まず初めに、そもそも企業は何を忘却し何を借用できるのでしょうか。クリステンセンは企業のビジネスモデルを4つの要素で表現しました。1)CVP(顧客価値の提供)、2)利益モデル、3)経営資源、4)ビジネスプロセス、です。

 

CVP(顧客価値の提供)とは、顧客が抱えている重要な課題や片づけたい用事に対し、提供している、もしくはすべき商品やサービスの価値は何か、そしてそれをどのように提供しているか、ということです。ビジネスモデルを考える際の出発点とも言えます。

 

利益モデルとは、企業が自社や株主のためにどのように収益を上げるか、です。売上の作り方(客数×客単価等)、コスト構造、1単位当たりの目標利益率、経営資源の回転率です。イメージとしては、ROEをどのような構成で最大化するか、ということです。

 

経営資源(リソース)とは、CVPの実現に必要な人材、技術や製品、設備、情報、チャネル、パートナーシップ、ブランド等が挙げられます。活用できる、もしくはすべき有形、無形の資産で、ヒト・モノ・カネ・情報と考えると分かりやすいかもしれません。

 

最後にビジネスプロセスとは、バリューチェーンや人事制度、オペレーションです。すなわちCVPを満たすための一連の業務プロセスのことを指します。

 

ベンチャーとは異なり、通常の企業には既存の事業が存在します。そしてそこにはこれまで成功してきたビジネスモデル(CVP、利益モデル、経営資源、ビジネスプロセス)があります。そしてこれが、新規事業や事業転換を行う際に足かせになったり、大きな手助けになったりします。

 

例えば菓子メーカーが工場オペレーションのコンサル事業を新規事業として始める場合、既存の機械や設備、KPI等はそのまま使用できないでしょう。すなわち忘却する必要があります。一方で、熟練したオペレーターやマネージャー、マニュアル、蓄積されたノウハウ、資金力、業界内ネットワークを借用することで、0から事業を始めるよりよほど効率的に物事が進められます。

 

それではどのようなものを忘れ、どのようなものを借りれば良いのでしょうか。
その点は後編で取り扱います。