ちょっと昔のお話です。
とあるサーバールームに、夜な夜な男があらわれたそうな……
9月ですが、季節感も何もなくいつもの調子でいきます、ええ!
さて、怖い話の類のいくつかのパターンの中に、「居ないはずのものが居る」というのがあります。
曰く、引っ越しの際に捨てたはずの人形が、いつの間にか背後にいる
曰く、真夜中に海岸沿いの一本道をドライブ中、背後から老人に追いかけられ、徐々に距離を詰められた。
曰く、夜半に隣の部屋の住人が壁を殴る音がはっきりと聞こえる。同じフロアに住んでるのは自分だけなのに。
曰く、マンションの10回の窓から、居ないはずの何かに覗かれる。
曰く、トイレの個室からトイレットペーパーが高速で回転するカラカラ音が聞こえる。誰も入っていないのに。
曰く、高速道路でかっ飛ばしてるとき、ふとドアミラーを見るとおばあさんが追っかけてきていた。
曰く、京都の邸宅の庭にあった梅が、元の主人恋しさに太宰府に飛んできた。
凡そ、「その場に居ることの辻褄が合わない/整合性がとれない事柄/人」などがあれば、それが転じて気味が悪いと感じてしまうのでしょう。
話は戻って、出だしのサーバールームにあらわれる男の話。
この話を聞いたのはちょっと昔なのですが、全体としてはこんな感じです。
とあるサーバールームに、夜な夜な男があらわれたそうな。
「現れた」と言っても、サーバールーム内で目撃者とばったり出くわすような訳でもなく、
並んだ機器の影に姿が消えていったのを見た……というわけでもない。
要は監視カメラがその男を捉えていたそうな。
このサーバールーム、監視カメラもあるくらいなので、戸締りも無論なされている。
おいそれと外部の者が入れるようなところではない。
無論、関係者は入れるのだが、それとてちゃんと専用のカードキーの類が無ければ無理と言う塩梅。
でもその男は確かにカメラにその風体をさらしていた。
幽霊の類にしては像がはっきりしているが、機器を壁抜けするような「如何に」もなマネをする所は撮られていない。
移動する際は行儀よく通路をゆっくり進んでいるとのこと。
ここまでなら、よくある怪談話が時代と場所を変えて再生産された程度で済んだのだが、その男の風体がちょっと問題だった。
ブリーフ一丁なのである。
潔く全裸なら、まだ「わぁぉ!」と言ってあげられるのだが、ブリーフ一丁である。
結構、時代の先端を行ってそうな空間で、正直その恰好はどうだ?
特に実害もなく、また「そういう風体」だったこともあってか、特に誰に追及もされることなく、
彼は今も夜な夜なサーバーを歩き回っているそうな。
お判り頂けたであろうか?
私の「人に聞いた怖い話」案件の中でも異彩を放つ「サーバールームをさ迷うブリーフ(を履いた男)」である。
聞いた当初、「なんだそれは?」と思考が停止したのをよく覚えている。
「サーバールーム内を血まみれの男がさ迷う」なら清く正しくホラーなのだが、何せ格好が「アレ」なお陰で、不気味さはあっても怖さはちょっと違うベクトルが違う。
なんとも言えない感覚を味わったお話である。
お判り頂けたであろうか?
そう、このお話は「怖そうでいてちょっとバカな話」として聞いたのだが、実はホラーでもなんでもない。
そう、単なる「ほんとうの話」ではないかと、ふと思ったのはそれから数年後だった。
ブリーフの人がサーバールームに居ること=「その場に居ることの辻褄が合わない/整合性がとれない」とはならない。
別にそんな場所にそんな人が居たところで辻褄は合うのだ。
恐らく真相はこうだ。
サーバールームがあるところから、高確率でIT系の職場で、これまた高確率で深夜残業や徹夜が横行するとする。
終電も終わり、タクシーで帰るわけにはいかず、ネカフェに行くのも億劫であれば、職場で寝てしまえと言う流れが起きやすい。
季節が夏場であれば、涼しい所で寝たくなるのが人情。
職場の関連施設で一番涼しいところと言えばどこか?
社長室?会議実?
…いや、常に一定気温以下で管理された部屋があるじゃないか!
そして彼は自分のカードキーで部屋のドアを開け、自宅アパートより快適なサーバールームで、気軽な格好で夜を明かしましたとさ。
お判り頂けたであろうか?
何せすべて社内のこと、上司も注意はしたが、残業を強要している手前強く言う事もできず、そういう行いが度々あったという、そんな実話に尾ひれがついた感じではなか?
そんな、怖い話も解体すると、別の世知辛い話が出来上がるというお話。
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……
…
でもね、このブリーフの人がちょっと人生行き詰ってて、
とうとうサーバールームで暴れだしていたら、
ほんとうの怖い話になってたよね、きっと……