コロナウイルスによるテレワーク加速で人材の質が見えて来る

 

コロナウイルスによって働き方の多様性が拡大した

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、テレワークや在宅勤務の導入が加速しています。特にGMOは全社員4000名に対していち早く導入しました。アンケート調査の結果によると、従業員の9割近くが高評価、7割がおおむね問題なしと回答しているようです。また業績でも問題なし、と自身の公式Twitterでも投稿しています。この動きを受け、IT企業を中心に現在では三菱商事や花王などでも一部在宅勤務が始まりました。日経新聞の調査によると、主要企業の5割が原則、または一部在宅勤務に切り替えたとのことです。まさに働き方改革では進まなかった働き方の多様性を、奇しくもこのコロナウイルスが実現させようとしています。

さて本題ですが、このままテレワークや在宅勤務が進んでいくと、今まで以上に人事評価に差が開いていくことが予想されます。生産性の高い人と低い人が嫌でもはっきりと可視化されるためです。今回は、在宅勤務の加速で訪れる社会変化を、企業の視点で見ていきます。

 

テレワーク・在宅勤務のメリットとデメリット

 まずテレワークや在宅勤務制度を導入した場合のメリット・デメリットを見てみましょう。

 メリットを3つ挙げるとすると、一つ目はやはり無駄な時間が減る、ということです。特に通勤時間が削減されるのが非常に大きなメリットです。日本の平均通勤時間(往復)が約1.5時間、これを年間出社日数240日で乗じると一人当たり360時間が1年で浮くことになります。もちろん発言しない会議への参加、形式だけの書類提出、業務に関係ない長電話、喫煙室での雑談、ついで営業への対応等々も無くなりますので、一日に生産的な活動に使える時間が増えることは間違いありません。

 次に雇用の幅が広がることも大きなメリットです。人手不足に悩んでいる地方の中小企業にとって、障がい者や子育て中の女性、地方にいる優秀な人材の雇用が容易になることは、双方にとってメリットと言えるでしょう。

 最後に、大きなオフィスが不要になるということです。賃料や土地・建物購入コストが減りますので、何億、何十億という利益、メリットがあります。

 一方でデメリットももちろん存在します。一つ目はセキュリティの問題です。自宅のネットワーク環境使い、データ上で情報をやり取りするからにはウイルスのリスクが存在します。ネット上のリスクだけでなく、例えば電車にパソコンを置き忘れる、置き引きに合う、等の物理的なリスクも存在します。私の周りでも飲み会にパソコンを持ってきた結果、酔いつぶれてカバンごとどこかに置き忘れる、ということがありました。

 二つ目のデメリットは、自分をしっかりコントロールできる人でなければどこまでもだらけてしまうということです。お菓子を食べながら、ゲームをしながら、お酒を飲みながら、あらゆる欲が周囲にあります。オフィスのように何時から何時まで、と決められた勤務時間も無ければ、人の目もありません。本人にとっても会社にとっても大きなデメリットと言えます。

 最後に、コミュニケーションがとりにくいというデメリットがあります。チャットやウェブ会議システムでコミュニケーションは取れますが、やはり生身で直接話すよりもコミュニケーションが減ってしまいます。報連相が減り、部下の様子が分からなくなるため、どのような成果を出しているのか、何に困っているのか等がリーダーは分かりにくくなります。報連相が減ることで、大きな問題につながる可能性も高まります。

 

 以上のように、様々なメリット、デメリットが存在します。しかしやはりテレワークや在宅勤務は導入するべきでしょう。“労働人口が減少する中で、いかに一人当たりの生産性を高めていくか”が引き続き企業にとっての最大のテーマになることは確実です。

 

いかにデメリットを最小化するか

 前述した通りテレワークや在宅勤務制度を導入するとして、次に企業が考えるのは“いかにこのデメリットを最小化するか”です。

 セキュリティに関する問題は、ソフトによるセキュリティ対策だけでなく、持ち出しルールや管理方法について厳しく周知徹底し、遵守するよう指導しなければなりません。あまりにシステムで徹底的に固めてしまうと、制約が多すぎて社用端末を使用しない社員も出てきます。よりリスクが高くなりますので、システム構築と並行してITリテラシー教育をしっかり行っている会社が多いように感じます。

 自分のコントロールが甘くなる、コミュニケーションが減るというデメリットに対する対策として、上司・同僚への報告機会を充実させる手段を多くの会社は取っています。成果や進捗状況を言語化、可視化し、簡単に測定、評価できるような報告のフォーマットや仕組みの導入が進んでいます。

 そしてこれが、冒頭述べた「テレワークや在宅勤務の導入によって生産性の高い人と低い人が嫌でもはっきりと可視化され、人事評価に差が開く」理由です。

 

具体的にどうなるのか

 単純に能力が低くて成果物が少ない人、様々な理由で割り振られた仕事が少ない人が明確に炙り出されます。これからはどれくらい働いているかを、“きちんと業務時間に会社にいたか”ではなく、 “どのような成果をどれくらい出したか”を報告書類で提出することになるためです。いらない会議に出席し、使うかどうかも分からない資料を作成している人は、報告することが無くなっていきます。能力が低い人は、成果物の量が明らかに他人より少なくなります。そしてその状況を上司や同僚に見られてしまうのです。もう日報や週報で「会議出席」「資料作成」「得意先訪問」「商談」とだけ書いて報告完了する時代ではなくなります。何度も述べますが、テレワークや在宅勤務制度が、そのような報告形態では機能しないのです。

 また、成果が可視化されるともう一つの動きも加速します。それが外製化です。その業務の生み出す付加価値がこれまで以上に明確に可視化されるため、「付加価値も低いしこの際業務委託で外製化しよう」という意思決定がなされるケースが増えていきます。もちろんテレワークに移行できない業務もコア業務でない限り外製化の検討がなされるでしょう。現に事務や経理業務の外製化は中小企業においても進んできています。

 

最後に

 悲観的に述べてきましたが、これはこれから実際起きうる話です。オフィスを持たなくなった大企業が、浮いた通勤時間分を生産活動に費やした場合、一気に生産性と利益率が向上します。AI技術の進化によっても議論されていますが、これからはこういった一つ一つのインパクトの大きな生産性向上施策から取り残された企業から淘汰されていきます。そのため企業も“やらなければ死ぬ”という文脈で行動します。

 私たちにできること、それは学び、自分自身の生産性を高める努力をすることです。会社が何とかしてくれるのを待つのではなく、自ら有用な人材になれるよう努める必要があります。