現代妖怪小話 目目連


コロナ禍で迎えた夏ですが、変わらず熱い日が続きます。
そうは言っても、日が落ちればその分熱さは和らぎますし、風でも吹けば熱気もほどほどと、幾分過ごし易くなるのが救いでしょうか。

夏の暑い時分には、怪談話でもして涼むのが昔の在り様でした。
妖怪なんかも、昔の説明のつかない不思議なことに理由付けをする、一種の装置として重宝がられたものです。

では不思議が随分と解明されてしまった世において、妖怪とはいったい何なのでしょうか?


「目目連っているじゃないですか」
また藪から棒だな…妖怪だっけ?

「そうです、あの障子に目がずらーっと並ぶ奴です」
はいはい、障子がいきなり目で埋まるとか、かなり気味悪いね。
一体何個の目玉で見られてるんだか。

「ちなみに先輩の家の障子だと72個ですね。すごく熱い視線で目姦されますよ!」
人ん家の障子のマス目数えるとか、無駄に観察力すごいな、おまえ…

「ほめても何も出ません」
褒めてねぇよ!

 


で、なんだ?なんで目目連なんだよ?

「これを見てもらえば判るんですけど」
はい、人んちの障子を断りなく撮影して、気味悪い目玉合成しない!夢に出そうで怖いわ!!

「ここのマス目に埋め込んだのががSちゃんの眼球で、こっちのマス目に埋め込んだのがDさんの眼球です」
目の画像ね、画像!!
そこだけ聞くと猟奇作品に出てくる素敵アイテムみたいだろ!人の皮で表装した本みたいな!

「なお、この中央のが先輩が白目剥いて寝てた時の奴です」
もういいから、本題に入れ!

 


「これだけ目があると、視線が気になっていろいろやり難いじゃないですか、犯罪とか」
経験者が経験談語ってるんならそーだろーな、この盗撮犯!

「で、この効果を実際の防犯に役立てようと思って、こういうのを企画しました」
何、新築ビルの広告用の3Dモデル?

「この窓の部分に埋め込んでみました!」
犯罪か?とうとう窓に人を埋め込んだか?

「いえ、まだ人は埋め込んでません。対費用効果が最悪なので、その案は泣く泣く却下しました」
経済原理万歳! …で何埋め込んだの?

「窓全面をCCDで埋め尽くしました」
CCD?

「はい、デジカメなんかに使われるアレです。所謂撮像素子です。」
何、窓ガラスを巨大デジカメにしたってか!?

「その窓ガラスがズラリと並んで、常時撮影し続ける究極の防犯カメラです!
…まぁ、ベランダ側の大きな窓ではなく、側面の採光用の窓なんですけどね…」
わぁー馬鹿だ!こいつ馬鹿だっ!

「それでも窓の機能は損なわないように、CCDそのものが光を透過する様に、開発部の人間には頑張ってもらいました!」
ほんまもんの馬鹿やで、こいつ?!

「ほめても何も出ません」
寧ろひっこめろ、その馬鹿さ加減!! 

「頑張ったのに…電源とか、確保大変だったんですよ」
馬鹿正直にコンセントとか使ってないからだろうが。

「どこの世界にコンセントに繋ぐ窓がありますか! 窓枠にバッテリーが入ってるだけです!」
まさか原子力電池?

「それは健康上の理由で却下されました。ホントに人間が絡むと何かと非効率で…」
あ”-じゃ、あれだ!太陽光発電!!

「それだけだと冗長性が無いので、昼夜の温度差を利用した温度差発電も乗っけました」
無駄に未来技術を取り入れてるが、壁の中に配線通してそっから普通に電源取ればよかったんじゃね?

「既に設計終了後でしたので、その辺融通きかなかっなんです。 仕方なく電力は自前で話を通しました」
で、肝心の画像データ周りは既にあったインフラを使ったと…

「さすが先輩です! WIFIは各戸に標準設置されてましたから、圧縮したデータをカメラから飛ばして、所定のサーバーに飛ばせるようにしました! 逆にカメラのソフトのアップデートもこれで行います」
勝手にWIFI使うなや!

「そこは抜かり在りません、ちゃんと規約に記載済みです」
どーせ、炙り出しで読めるような感じでだろうが!

「いえ、契約書の用紙に透かし印刷されている模様の様に見えるのがそれです」
無駄遣い!技術と発想の無駄使い!

「ほめても何も出ません」
普通、妖怪を参考にこんな防犯システム考えつかんわ!

「ほめ殺しとか、先輩も高度な技を…」
いっそ褒め溺れてしまえ!

「とりあえず、頭文字をとってMMRというシステムとして売りこんで、なんとか採用してもらいました」
どんな罠にはめて採用を強制したかは聞かないでおこう。

「私も言わないでおきます。男ってホント単純…」
あー聞こえない!何も聞こえない!

 


「試験運用でイロイロやってみましたが、防犯用途以外にも、いろいろなものが映っていて楽しかったですよ」
まー途中で画像同士の接続加工が必要とは言え、ビル一個分のサイズの画像とかなかなかないわな。

「ビルの谷間を飛ぶ鳥の群れとか、クモの糸で移動する全身タイツマンとか、日に数回上から下に通り過ぎる人影とか、逆に下から上に消える血のりの手形とか」
新築マンションなのに、なんで既に心霊案件でてんだよ!早すぎだろ?!

「何か珍しいカラクリが使われてるビルって触れ込みだったので、見学に来てたみたいです。人が入る前だと騒がれないから、気軽にダイブしてクライミングできるとかで」
普通に聞き取り調査するなや!

「全身タイツマンはネズミの国との関係が疑われたので、残念ながら無視しました。これだから人間は…」
はい、そのネタは危険だからそこまで!

 


「特に大きな問題もなかったのでそのまま運用されたんですが、いつも見られていると判ると、人間なかなか悪いことはできないもののようです。実際、この地区の犯罪率は30%ほど低下しましたし」
まま、効果があったのなら、良しとするか…

「代わりに、この窓ガラスが向いていない面で悪さをするひとが増えましたけどね!」
最悪だ、人間所詮はそんなもんか?!

「最も、皆さんが認知している「MMRの窓ガラスが向いていない方」に実際の窓ガラスが設置されてましたので、入れ食い状態でした!」
そいつらの検挙込みでの30%減かぁ…

「いやーここまで上手くだまされるとは…所詮、人間こんなものですね!」
…で、一体どこまでが嘘なんだ?

「さぁ何処まででしょう? ちなみに売り込みを行ったのはホントですよ?」

 


さて、この後輩の話、いったいどこが嘘だったのか?

「そして、これが上から下に通り過ぎる人影さんとの記念写真です! タイミングが合わなくて3回くらい取り直した力作です!!」
その向こう側で、さり気なくピースしてる全身タイツマンに事にも少しは触れてあげて…